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福島地方裁判所 昭和24年(ワ)12号 判決

原告 松葉喜助

被告 谷川義夫 外一五名

一、主  文

原告の第一、第二の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、

第一、

原告に対し被告積和会は金二八、〇〇〇円と引換に日東紡績株式会社第二新株五六〇株を、被告株式会社日進製作所は金二一、〇〇〇円と引換に同株四二〇株を、被告河野正司は金一四、〇〇〇円と引換に同株二八〇株を、被告鈴木義夫、本間喜一、井橋太郎兵衛、木村和郎及び中川国之助は各金三、五〇〇円と引換に同株各七〇株を、被告中原証券株式会社は金三、九〇〇円と引換に同株八〇株を、被告村瀬初世は金一、七〇〇円と引換に同株五〇株を引き渡せ。被告谷川義夫は金九五、二〇〇円、被告木野維清は金四四、八〇〇円、被告金子フイ及び被告飯泉三郎は各金四七、六〇〇円及び右各金額に対する昭和二五年七月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、福島市大字郷野目字東一番地に本店を有する訴外日本紡績株式会社(以下訴外会社という。)は、昭和二三年七月八日本店における臨時株主総会で、次のような決議をした。

(一)  資本金九千万円を増加する。

(二)  増資新株式一株の金額を五〇円とし、全額払込済とする。

(三)  増資新株式一六八万株は昭和二三年九月一五日現在の株主に対しその所有株数一株につき一、四株の割合で任意引き受けしめる。但し端数株数は会社の指定するものをして引き受けしめ、被指定者はその取得した権利を取締役会の承認する方法によつて処分し、その処分代金から一切の費用を控除し、残額があつたときは、これを関係株主に按分して交付する。

(四)  増資新株式の申込及び払込期日の決定は取締役会に一任する。

二、取締役会は右増資新株式(以下第二新株式という。)の申込期日を昭和二三年一〇月一〇日、株金払込期日を同年一一月一日と決定し、前項(三)但書の端数株式処分代金は一株につき金一〇〇円の割合によつて同年一二月三日訴外会社から各端数株主に送金された。

三、被告谷川、木野、積和会は各四〇〇株、被告株式会社日進製作所は三〇〇株、被告金子、飯泉、河野は各二〇〇株、被告木村、小竹、鈴木、本間、井橋、中川は各五〇株、被告中原証券株式会社は五八株、被告村瀬は四二株、被告岡村は七〇株の訴外会社の株主であつたが、被告等は、右増資新株式割当期日前に裏書または白紙委任状を添附して右株式を譲渡し、原告は、昭和二三年八月中増資新株権利附の時価で、右株式を買い入れて該株券を入手したが、右割当期日までに名義書換手続を失念したため、訴外会社は、株主名簿上の株主である被告等に対し請求の趣旨記載の株数の第二新株式の割当をし、(被告谷川、木野は各五六〇株、被告金子、飯泉は各二八〇株)被告等は、その払込をした。

四、株式譲渡の場合において、名義書換未了の間は、会社に対する関係においては、増資新株式引受権は、利益配当請求権及び株金払込義務と同じく、譲渡人にあるが、譲渡当事者間の関係においては、株式譲渡とともに株主としての権利義務一切は譲受人に移転するものであるから、右株券の保有者は、株主の地位に基き将来発生することあるべき増資新株式引受権をも取得するものと解すべきである。従つて、本件第二新株式引受権は株式譲受人である原告が有するのであるから、訴外会社から第二新株式を取得した被告等は、右株券を原告に引き渡すべき義務がある。

以上のように、原告は、株主権から生ずる増資新株式引受権を有するもので、既に株主権を譲渡した被告等は、これを有しないのであるから、被告等は、法律上の原因なくして第二新株式を得たか、または義務なくして原告のためにその引受申込をしたものといわなければならないのであつて、この点においても被告等は原告に対し株券を引き渡すべき義務がある。

五、原告は、名義書換がなされなかつたことを知つたので、申込期日前である昭和二三年一〇月九日、その後一〇月二一日、一一月一日それぞれ書面をもつて、または人を使つて、各被告に対し第二新株券の返還を請求した。

六、被告等は、既に株式を譲渡し、従つて新株引受権も譲受人に移転しているのであるから、右引受権を放棄するのが当然である。被告等が引受申込をしたのは、他人のために義務なくしてこれをしたのにかかわらず、被告等のうちには権利獲得料として権利の半額を要求する者もあるが、原告は、一株三〇〇円以上の増資新株附の高価で買い入れたのであるから、更に多額の獲得料という不当な請求には応じられない。

七、被告中原証券株式会社には一株、被告村瀬には八株の各端数株が生じたので、同被告等は、二で述べたように一株につき一〇〇円の割合で利益を受けた。この利益も原告の受けるべきものであるから、被告中原証券株式会社に対しては、その払い込んだ四、〇〇〇円から右一〇〇円を控除した三、九〇〇円と、また被告村瀬に対しては、その払い込んだ二、五〇〇円から右八〇〇円を控除した一、七〇〇円と、各引換に、その他の被告(被告谷川、金子、飯泉、木野を除く。)に対しては、それぞれ払い込んだ金額と引換に、第二新株券の引渡を求める。

八、被告谷川、金子、飯泉は、原告に返還する義務ある前示第二新株を昭和二四年二月二四日、また被告木野は、これを同年八月三一日、それぞれ他に譲渡して名義書換を了した。第二新株の市価は、右二四日当時は一株二二〇円、右三一日当時は一株一三〇円であつたから、被告等は一株につき右金額からその払込金額五〇円を控除した差額を利得したわけである。従つて被告谷川は五六〇株分九三、二〇〇円、被告金子、飯泉は各二八〇株分四七、六〇〇円、被告木野は五六〇株分四四、八〇〇円をそれぞれ不当に利得し、原告は、同額の損害を被つたから、被告等に対し右各金額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和二五年七月一三日から完済まで年五分の割合による損害金の支払を求めると述べ、

被告等の主張に対し、

一、被告等は、原告と被告等は直接の売買当事者でないから、被告に対し請求すべきでないとか、原告から順次売主をたどつて請求すべきであるとか主張するが、記名株券の名義人が名義書換に要する白紙委任状を添附し、または株券に裏書してこれを他人に売り渡したときは、間接取得者は当然に直接取得者の地位を承継するものであり、またその株券及び添附書類を善意無過失で取得した第三者との間に直接に売買が成立したものとみなす顕著な商慣習があるから、原告が間接取得者であつても、被告等に対する本訴請求を妨げるものではない。

二、被告等は、訴外会社の株主総会の増資決議は、昭和二三年九月一五日現在の株主名簿上の株主に引受権を与え、その株主が引受を欲したときに引受権があることを決議したもので、右株主の有していた株式そのものに右のような特別の利益が附着していたものではないと主張するが、右決議は、増資新株式を会社の株主に対しその所有する株式一株につき一、四株の割合によつて割りあてたもので、株主権のない一般大衆から公募したものではない。右決議は従来の株主に対し、その株主権に基いて引受権を付与したものであるから、株主権に伴う利益配当請求権などと何等差異あるものではない。

三、被告等は、新株が利益となつたときは、譲受人から引渡を強要され、不利益となつたときはいわゆるほおかぶりをされる不合理があると主張するが、若し訴外会社の株価が払込額以下に下落し、またはそのおそれがあるなら、既に株式を他に譲渡した被告等が新株の引受をするはずはなく、また引受申込をしないのが当然且つ安全の処置である。しかし同会社の株価は、財界不況のときでも多年額面以上を保持し、原告が本件株式を買い入れたときは一株三〇〇円以上を保つていたので、その第二新株の市価も多額のプレミアムのあることが明らかであつたから、原告がほおかぶりをするはずはなく、被告等からその引取を求められてもこれを拒絶するはずもなく、被告等の主張するような不合理はない。

四、被告等主張の商慣習または慣習のあることを否認する。現に原告は、失念株中の八割に相当する部分については、任意に新株の引渡を受けたし、原告名義の株式中の失念株については、失念者の請求に応じて直ちに新株を引き渡した。かりにこのような商慣習があつても、それは法律と同一の効力を有するものではなく、当事者の意思いかんが考慮されるべきである。原告は、名義書換失念を発見すると、直ちに被告等に新株の返還を求めたが、右は原告に右慣習に従う意思のなかつたことを示すものである。

五、被告株式会社日進製作所は、第二新株の払込をしなかつたというが、その引受権を被告会社取締役池田久雄に譲渡し、同人が払込をしたのであるから、免責の理由とはならないと述べ、

第二、

原告に対し、

被告積和会、河野は各金三七、五〇〇円と引換に日東紡績株式会社第三新株各二二〇株、第四新株各七五〇株を、被告株式会社日進製作所は金五四、〇〇〇円と引換に同第三新株三三〇株、第四新株七五〇株を、被告鈴木、本間、井橋は各金八、五〇〇円と引換に同第三新株各一二〇株、第四新株二七〇株を、被告中原証券株式会社は金一一、〇〇〇円と引換に同第三新株一五〇株、第四新株二二〇株を、被告村瀬初世は金六、五〇〇円と引換に同第三新株四〇株、第四新株二九〇株を引き渡せ。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、訴外会社は、昭和二四年一月二六日の臨時株主総会において次のような資本増加の決議をした。

(一)  資本金一億五千万円(この株式三〇〇万株。)を増資する。

(二)  増資新株式のうち二四〇万株は別に定める期日現在の株主に対しその所有株式一株につき〇、八株の割合で引き受けしめる。

二、右増資新株式(以下第三新株式という。)の割当期日は昭和二四年二月二五日午後四時現在の株主とし、申込期日は同年四月一五日と決定された。

三、訴外会社は、更に企業再建整備計画に基き、次のとおり増資(この増資新株式を第四新株式という。)をした。

(一)  資本金三億円を増資する。

(二)  増資新株式は昭和二四年八月三一日午後四時現在の株主に対しその所有株式一株につき一株の割合をもつて割り当てる。

(三)  申込期日を昭和二四年一〇月一五日とする。

四、原告は、右第三新株に対しては申込期日前である昭和二四年四月八日、第四新株に対しては同年九月三〇日書面で請求の趣旨記載の被告等に対し、目下引渡請求中の株式に割り当てられる増資新株式の真の申込権利者は、旧株式を譲り受けた原告であるから、その割当書の返還を求めるとともに、第三、第四新株式の引受申込をしないよう勧告したが、被告等は、それぞれ請求の趣旨記載数の右第三、第四新株式の引受、払込をし、右株式を取得したから、その引渡を求めると述べた。

第一に対する被告等の答弁。

被告等(被告谷川、木野、飯泉、岡村、中川を除く。)原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、被告積和会等五名訴訟代理人及び被告木野は、原告主張事実中、

第一、二項の事実を認める。

第三項中被告等が訴外会社の株主であつたが、資本増加決議前東京都において、これを白紙委任状附または裏書をして、証券業者に売却したこと、(但し被告積和会が売却したのは四〇〇株ではなく、二〇〇株である。)被告等が訴外会社から原告主張のとおり第二新株式の割当を受け、(但し被告積和会に対する割当株数は、五六〇株ではなく、二八〇株である。)被告株式会社日進製作所を除いたその他の被告が、各割当株式の引受申込をし、次いで株金払込をしたことは、これを認めるが、その他の事実を争う。第五項中払込期日後原告から株券引渡の請求を受けたことを認める。

第八項中被告金子が第二新株を他に譲渡したことを認める。

一、仮に原告が、被告等の右旧株式を買い入れたとしても、昭和二三年九月一五日現在株主名簿に株主として記載されていなかつたことは、原告のみずから主張するところである。ところが第二新株は、株主名簿上の当時の株主である被告等に割り当てられたもので、これを引き受けようとする被告等に、その引受の権利を付与されたものであつて、原告が所持していた株式そのものに右のような特別の利益が附着していたものではない。訴外会社は、昭和二三年九月一五日現在の名義者をもつて株主本人とみなしたものであつて、真実の株主か何人であるかは、同会社の関知しないところである。被告等は、割当を受け、引受、払込をしたから、第二新株式を取得したのである。若し、被告等が所定の期日までに引受申込または払込をしないと、訴外会社は、被告等を棄権者とみなすのであるが、このときも、原告が当然に申込の権利を取得するものではなく、他から株主を募集することになつている。

二、原告は、昭和二三年八月中増資新株権利附の時価で旧株を買い入れたというが、被告等が旧株を売却したのは、いずれも第二新株式発行前であつて、将来発行されるかも知れない新株の売買を相伴う意思はなかつた。

三、被告等は、自己の権利に基き、自己のためにする意思で、第二新株式の引受申込をしたもので、その結果利得を得たとしても、それが不当利得となることはない。

四、原告は、名義書換をしなかつたため、株価暴落によつて生ずる危険を負担しなかつた利益を得ており、また税金等の関係あるいは新株の株金払込時期に一時多額の払込をしなかつたことによつて金融上の利益を得ている。しかも第二新株か相当昂騰するとの見透しがたつた時期において、その引渡を請求するのは、誠に勝手至極というほかない。

五、予備的に次のように抗弁する。

譲受人が名義書換を失念した場合に、譲渡人が増資新株の割当を受け、その引受申込をしたときは、譲受人は、払込金及びいわゆるプレミアムの半額を提供して、新株を引き取ることができるという商慣習法ないし商慣習が東京都に存することは、顕著な事実であつて、株式市場の表裏及び慣習等に通じている原告がこれを知らないわけはない。原告は、右慣習に従う意思を有しなかつたと主張するが、何等格別の意思表示をしていない本件においては、当事者はこれによる意思を有していたものと認められるのであるから、右慣習が仮に慣習法に達していないとしても、これに従つて処理されるべきであると述べた。

被告木野は、請求の趣旨及び請求原因八項については、答弁書その他何等の準備書面をも提出しない。

被告河野等三名訴訟代理人は、原告主張事実中、

第一、二項の事実を認める。

第三項中被告等が原告主張の株数の訴外会社の株主であつたこと及び第二新株の割当を受けたことはこれを認めるが、その余の事実及び第四項以下被告等関係事実を争う。

新株の割当は、単なる株主募集の一方法に過ぎないので、決して配当請求権のように株式自体の権利義務ではない。被告等は、訴外会社から新株の割当を受けたので、自己の利益のため第二新株の引受申込をしたものであり、第二新株を原告に売り渡したことはないから、本訴請求は失当である。

なお被告等は、本件のような場合、原告は、払込金及びプレミアムの半額を被告等に提供して、新株を引き取ることができる商慣習のあることを主張する。

被告中原証券株式会社訴訟代理人は、原告主張事実中、

第一、二、三項の事実及び第七項中同被告が訴外会社から金一〇〇円の交付を受けた事実はこれを認めるが、その他の事実を否認する。

新株引受権についての被告の見解は次のとおりである。

一、新株割当の株主総会の決議は、新株応募者の範囲を定めたもので、この範囲の該当者が新株引受の申込をして、初めて新株引受権者としての権利義務が発生するものである。原告は割当期日における株主名簿上の株主でないから、新株応募の資格はない。仮に原告が右資格者であつたとしても、原告は申込期日までに申込をしなかつたのであるから、新株引受権利者ではない。

二、株主総会の決議は、株主名簿上の名義者を株主本人とみなしたものと解すべきである。会社が真実の株券所有者を知ることは至難であるから、会社は一定の日時における株主名簿上の名義者を株主本人とみなして、新株引受権者を決定するほかはない。

三、新株引受権は、利益配当請求権とは本質的に異り、株式に当然随伴するものではない。後者は、いわゆる株主の自益権で、株主権の主要な内容である。しかし前者は、株主総会の決議をまつて初めて定まるものであつて、必ずしも株式に随伴するものとは限らないことは、現に訴外会社でも旧株主以外の応募資格者を定めている事実に徴し明らかである。故に、新株引受権は利益配当請求権と同一性質であるとする原告の理論は誤りである。

四、証券流通の円満を保護する上からも、原告の請求は認められるべきではない。原告主張のように譲受人が新株の引受権者であるとすると、その株券引渡請求権行使期間については別段の定めがないのであるから、五年、一〇年あるいはその後になつても引渡を求められる虞があつて、株券の流通は阻害される。

五、衡平の見地からみても原告の請求は不当である。新株引渡請求権行使の期間について制限のないことは、前に述べたとおりであるから、譲渡人が新株処分後、株価の暴騰したときに、その引渡を求められるようなこともあり得るので、譲渡人は、不測の損害を被むる虞がある。こう考えると、何等の障害もないのに、名義書換をせず、新株引受の機会を失つた譲受人を保護する必要はない。

六、若し原告主張のように新株引受権者が原告であつて、被告でないとすると、次のような矛盾が生ずる。

(一)  譲受人は、新株引受の意思がない場合でも、譲渡人の引受行為によつて新株の引受を強制されると同じ結果になる。

(二)  譲受人の主観的意思によつて、新株の権利が左右されることになる。

(三)  譲受人に引受意思のない株式には株主がないことになる。このような場合、譲受人は権利を取得せず、また譲渡人には新株引受の権利がないからである。

と述べ、

被告飯泉三郎は、

原告主張事実中第一、二項の事実は不知、第三項中同被告が原告主張のとおり第二新株の割当を受けて、払込をしたことは認めるが、その他の事実を否認する。第四項から第六項までの事実は争う。被告は、新株の割当及び払込については、原告主張の法律解釈を肯認することができないので、原告から何等問責を受けるいわれはないと述べた。

同被告は、請求の趣旨及び請求原因第八項に対しては、答弁書その他の準備書面を提出しない。

被告鈴木義夫は、原告主張事実中、

第一、二項の事実を認める。第三項中原告か、被告か譲渡した株式を買い受けたことはわからないが、その他の事実を認める。第四項以下の事実は争う。

被告が、新株式の割当を受け、払込をして、新株式を取得したのは、株主当然の権利であるから、原告がこれを回復しようとするなら、譲受人、譲渡人がそれぞれ新株式を折半して取得するという顕著な商慣習法に従うべきであると述べ、

被告井橋は、原告主張事実中、

第一、二項の事実を認める。第三項中被告がその所有の訴外会社株式五〇株を白紙委任状附で新株割当前他に譲渡したこと。被告が訴外会社から第二新株七〇株の割当を受け、その払込をしたことは認めるが、その他の事実は不知、第四項は争う。第五項中昭和二三年一〇月中旬ごろ第二新株返還の請求があつたことを認める。

一、原告は、名義書換をしなかつたのであるから、第二新株の割当を受ける権利を放棄したものといわなければならない。従つて右権利が原告にあることを前提とする本訴請求は失当である。

二、原告は、第二新株が引受価格を割るような値下りの場合には、名義書換をせず、いわゆるほおかぶりをする意図であつたことは明らかである。その利益であるのを見極めて本件請求をするのは、誠に悪質で、信義誠実の原則に反し、権利の濫用である。従つて、原告に割当を受ける権利があるとしても、これを裁判上で主張することは許されない。

三、被告の以上の主張がいずれも理由がないとするも、本件のような場合には、増資新株式またはその現在における利益を原被告において折半する商慣習法または商慣習があるから、本訴請求には応じられないと述べ、

被告中川は、原告の請求を次の理由によつて拒絶する。

一、被告は、昭和二二年一月三〇日訴外会社株式旧一七〇株、新一〇二株を大阪市草川証券に売り渡したものであるから、順席として草川証券を経て請求すべきである。

二、元来原告は、証券売買を本業とし、既に訴外会社株式数万株を所有し、本件だけでも関係者二二名、株式数四、〇二〇株を買いつけたのであるから、名義書換を失念するはずがない。また原告は増資新株権利附の時価というが、それは被告の関知するところではない。

三、請求原因第四、五、六項の点を争う。譲受人が名義書換をしないときは、第二新株引受権は譲渡人にあるのであるから、本件第二新株引受権者は被告である。

以上要するに、被告は、原告のいう条件では引渡請求に応ずることができないと述べた。

被告谷川、岡村は、答弁書、その他何等の書面をも提出しない。

第二に対する被告等の答弁。

被告積和会、株式会社日進製作所、村瀬訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張事実中第一、二、三項の資本増加をしたことは認めるが、増資方法のくわしいことはわからない。第四項は争う。原告は、第二新株式の株主でないのだから、本訴請求も失当であると述べ、

被告中原証券株式会社訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の第一項ないし第四項記載事実は認めると述べた。

被告河野、本間複代理人は、本件口頭弁論期日は出頭したが、別に答弁しない。

被告鈴木、井橋は答弁書その他の準備書面をも提出しない。

<立証省略>

三、理  由

原告の請求第一について。

原告主張事実は、被告谷川、岡村において、これを自白したものとみなす。

訴外会社が、昭和二三年七月八日の株主総会で、原告主張のような内容の増資決議をしたこと及び訴外会社の取締役会が、右増資第二新株式の引受申込期日を昭和二三年一〇月一〇日、株金払込期日を同年一一月一日と決定したことは、被告飯泉、中川以外の各被告の認めるところであり、被告飯泉、中川の関係では、証人佐久間勝伊の証言で真正に成立したものと認める甲第一号証の二に当事者弁論の全趣旨を総合して、右事実を認める。

被告等が、原告主張の株数の訴外会社の株式を、割当期日である昭和二三年九月一五日まえに、裏書または白紙委任状附で、他に売り渡したこと、被告等が訴外会社から、原告主張の株数の第二新株式の割当を受け、その引受、払込をして、右第二新株を取得したことは、事実の部に記載したとおり、ある被告等は明らかに認めるところであり、ある被告等は明らかに認めるとはいわないが、これを争う意思があるものと認められないことは、当事者弁論の全趣旨で明らかである。もつとも、被告積和会は、処分株式数及び引受株式数を争うが、甲第二号証によれば、その処分株数が四〇〇株であることが明らかであるから、別段の反証のない本件では、同被告は、新株五六〇株の割当を受け、その引受、払込をしたものと推認する。また甲第六号証によれば、被告株式会社日進製作所は、第二新株式引受権を内田久雄に譲渡し、訴外会社が右譲渡を承認したことが明らかであるから、同被告は、引受、払込をしなかつたものと推認する。

次に、証人佐久間勝伊の証言で真正に成立したものと認める甲第二号証、第三号証の一乃至七、第四号証の一乃至五、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第九号証、証人佐久間勝伊の証言を総合すると、原告は、前示のように被告等が裏書または白紙委任状を添附して他に譲渡した訴外会社の株式を、昭和二三年八月中買い受け、その株券を入手したが、割当期日である同年九月一五日までに名義書換手続をしなかつたため、第二新株式は、株主名簿上の株主である被告等に割り当てられるようになつた事実を認めることができる。

原告は、増資新株権利附の高い価格で、右株式を買い受けたとか、新株引受権は、利益配当請求権と同じく、株主権に基くものであるから、株式の真の権利者である原告に与えられるべきものであるとかと、主張するが、当時施行されていた商法の規定によれば、定款に特別の定めがあるか、または第三四九条に該当する場合のほかは、第三四八条の規定により、株主総会が資本増加の決議において新株の引受権を与えられるべき者を定めることができるのであるから、右引受権者は、株主総会の決議によつて初めて定まるわけで、株式や株主権に当然に随伴して生ずるものということはできない。

さて昭和二三年七月八日の訴外会社株主総会は、同年九月一五日現在の株主に対しその所有株数一株につき新株式一、四株の割合で引き受けしめることを決議したのである。原告は、右決議にいわゆる株主とは、株式の譲渡を受けても、名義書換未了の間は、会社に対する関係では、株主名簿になお株主として記載されてある譲渡人ということになるが、譲渡当事者間の関係においては、右譲渡とともに株主としての権利義務一切は譲受人に移転するのであるから、譲受人ということになる。従つて本件では、被告等に対する関係では、原告に新株引受権があるから、原告は被告に対し第二新株式の譲渡を求め、該株券の引渡を求める権利があると主張する。しかし対会社の関係においても、原告のように解する必要はない。いま記名株式の株主甲がこれを乙に譲渡したとき、たとえ名義書換未了の間であつても、会社は、右譲渡行為を認めて、乙を株主として遇することができるのであるから、乙に新株を割り当てても差支ない。甲が自己に割り当てるよう請求しても、会社は右譲渡行為を主張して、甲の請求を拒むことができる。また名義書換のない以上、乙は、株主であることをもつて会社に対抗し得ないのであるから、会社が甲に割り当てても会社に対し何等の主張もできない。それ故、株主総会の決議が特に株主名簿に記載されてある株主と限定するなら格別、そうでないなら、必ずしも原告の見解のように限定的に解する必要はあるまい、ただ実際上の問題として、会社としては百数十万株の旧株の真の株主を知ることは殆ど不可能であり、且つその繁にたえないから、結局は株主名簿上の株主に割り当てることになろう。甲第一〇、一一号証には、割当期日までに名義書換手続をしないと割当から除外される旨注意書があるが、それは簡易、迅速、無難に割当事務を処理する実際上の必要から、株主名簿上の株主に割り当てることを示したものに過ぎない。とにかく、会社に対する関係においても、会社から割当を受けた株主に引受権があると解する。譲渡当事者の関係においても同様に解する。若し原告のいうように譲受人に引受権があると解すると、いろいろと不合理の生ずることは、被告等がるゝ述べているところである。たとえば、商法は、株主有限責任の原則を採つているのであるから、(当時の商法第二〇〇条)新株を引き受けるかどうかは割当を受けた譲受人の任意にまかせられているわけである。しかるに、譲渡人は、譲受人に新株引渡の義務があるものとすれば、譲渡人は常に新株の引受をしなければならないし、また譲受人もこれを引き取らなければならない結果となつて、右原則は空文に帰する。また新株の市場価格が額面以下であるときは、譲受人は決してその引渡を求めないであろうが、譲渡人は譲受人を知ることのできない場合が多いので、その引取を求めることはできない。しかし一旦市価が高騰すれば、何時譲受人からその引渡を請求されるかも知れないから、譲渡人は、常に新株を保持していなければならない。かくて利益は常に譲渡人に帰し、損失は譲渡人が忍ばなければならない不都合が生ずる。また譲受人に引渡請求権があるものなら、これに対応して引取義務があることになろうが、そうすると譲受人は、何時不利益な新株の引取を請求されるかも知れない。こうして譲渡人、譲受人は、ともに、不時不測の損失を招くかも知れない危険におかれていることになるのである。かように考えるから、新株の引受権は、その割当を受けた譲渡人にあつて、譲受人は、これを有しないものと論結せざるを得ない。従つて、本件第二新株式は、その割当を受け、引受、払込をした被告等(被告日進を除く。)が取得したもので、原告は、これにつき何等の権利もないものといわなければならない。

原告は、被告等は法律上の原因がないのに第二新株式を取得したとか、義務がないのに原告のためにこれを取得したとかと主張するが、被告等が自己の有する引受権を行使し、自己のためにする意思で、引受、払込をしたことは、前の説明で明らかであるから、原告の右主張も理由がない。

従つて被告等は原告に対し第二新株券引渡の義務があるものではなく、また右株式を他に売却しても原告に対し賠償の義務があるものでもないから、原告の第一の請求は失当として、これを棄却する。

第二について。

原告の第二の請求が、原告において第二新株式について権利を有することを前提とすることは、原告の請求原因によつて明らかである。しかるに、前に認定したとおり、原告は、第二新株式について何等の権利をも有するものでないから、仮に原告が第二で主張した請求原因事実が総べて原告主張どおりであるとしても、原告の右請求は理由がなく、これまた失当として棄却すべきものである。

よつて民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 黒沢溝 福間住昭)

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